木のテーブルに並べたNANAツインウエハースのパッケージと、出てきたメタリックプラカード3枚

物のレビュー

NANA ツインウエハース

物 ・ 2026.08.05 ・ バンダイ

総合

8.5 /10
所有欲
9.6
実用
4.5
価格納得
9.0

結論

矢沢あいのイラストが、コンビニの一番目に入る棚に並んでいる。買わない理由の方が思いつかない。

なかよし・りぼん・ちゃおから花の24年組を経て矢沢あいへ。その系譜の頂点が、198円で手に入る。

対象年齢15才以上。子どもの目線の高さには置いていない。売る相手は、はなから子供ではない。

良かった

  • 矢沢あいの絵と漫画のコマが、198円で手に入る
  • ランダム封入という、当時のままの形式

引っかかった

  • 菓子としてのウエハースは主役ではない
  • 全33種。箱買いを止めるものが何もない

コンビニでふと、お菓子売り場の棚に並んでいるNANAのツインウエハースを手に取ってしまった。

矢沢あいのイラストが、コンビニの、あの一番目に入る棚に並んでいるのだ。買わない理由の方が思いつかない。

ボクは少女漫画で育った。

小学生の頃、周りの男子はジャンプとマガジンとサンデーを回し読みしていた。その輪の中で、ボクが読んでいたのは、なかよしとりぼんとちゃおだった。多様性に無理解の平成初期に、周りに隠れて読んでいたのだ。

友情・努力・勝利。あの三語で要約できてしまう世界の隣に、まったく別の色鮮やかな世界があることを、ボクは知ってしまった。少年漫画の感情は、単純だ。強くなる、勝つ、仲間ができる。少女漫画の感情は、そういう構造をしていない。好きだけど言えない。憧れているのに妬ましい。大事だから遠ざける。矢印が一方向に伸びてはいない。

最初に触れたのは『美少女戦士セーラームーン』だ。たいていの人はアニメの記憶で語る。でも武内直子が『なかよし』に描いていた原作は、また違う顔をしている。前世があり、輪廻があり、終盤では仲間が一人ずつ死んでいく。未来から来た娘が敵になる。世界を救う物語なのに、救われないものが最後まで残り続ける。あの容赦のなさを、ボクは小学生で浴びた。

『魔法騎士レイアース』と『カードキャプターさくら』で知ったのは、物語は構造ごと仕掛けられる、ということだった。レイアースは、異世界に召喚された三人の中学生が囚われた姫を救いに行く話だと思って読んでいると、その「救う」という言葉の意味そのものが裏返る。足元が抜ける、というのはああいう感覚を言うのだと思う。カードキャプターさくらの方は、好きという感情の形が一つではないことを、説明も言い訳もせずに、当たり前の顔をして並べてみせた。CLAMPは、世界の設計図から先に描く。

『天使なんかじゃない』『姫ちゃんのリボン』『こどものおもちゃ』では、ピュアな恋心を知った。今読み返すと、こどものおもちゃなんてピュアどころではない重さを抱えているのだけれど、当時のボクが受け取っていたのは、間違いなくあの胸の詰まる感じだった。

高校生から大学生で、花の24年組にどハマりした。萩尾望都、竹宮惠子、山岸凉子、大島弓子、樹村みのり。昭和24年前後に生まれた作家たちが、少女漫画という器に、SFと歴史とホラーと、そして文学を丸ごと流し込んだ人たちだ。『ポーの一族』『トーマの心臓』『風と木の詩』『日出処の天子』『綿の国星』。漫画がここまでやるのか、という驚きがあった。ページを捲るたびに期待値を上回った。深い心理描写に沈み込んでいく時間が、たまらなく好きだった。

その系譜にある篠原千絵、田村由美、清水玲子、ひかわきょうこ、今市子、波津彬子、岡崎京子、よしながふみも、貪るように読んだ。

そして、その表現力を引き継ぎながら、舞台を異世界でも歴史でもなく、いま隣にある東京に持ってきたのが矢沢あいだ。24年組が積み上げた心理描写の精度を、リアルな生活の中で使った。ファッショナブルで、生々しくて、愛と憎しみが同じ人の中に同時にある。あんなジャンル、それまで存在しなかった。

その先の系譜に、桜沢エリカ、内田春菊、柴門ふみ、安野モヨコ、おかざき真里、ジョージ朝倉がいる。バブルの前後を生きた人たちの感情が、加工されずにそのまま置いてある。

少女漫画の世界にはどっぷりハマったけれど、やっぱりどこまで行っても頂点は矢沢あいなんだよね。『ご近所物語』から『Paradise Kiss』、そして『NANA』へと続く流れは、もう深く深く突き刺さる。

その頂点が、いま198円で菓子売り場に並んでいる。

カードの方は、メタリックプラカードだ。手に取ると、これはお菓子のおまけの精度ではない。角度を変えると地の箔が虹色に振れる。ナナと蓮が抱き合う一枚は、二人の背後だけが光を反射して、コマの外の空気まで刷ってあるように見える。ブラックストーンズのロゴだけを大きく置いた一枚は、黒地に赤で、原作の扉絵の質感がそのまま残っている。全33種、うちシークレットが2種。何が入っているかは、当然、開けるまでわからない。

確かにお菓子売り場にある。しかし、子どもの目線の高さには置いておらず、明確に大人をターゲットにしている。パッケージには、対象年齢15才以上と書いてある。売る相手は、もちろんはなから子供ではないのだ。

ビックリマンチョコの時代から変わっていない形式である。低単価、おまけ、ランダム封入。子供の頃は、全部集めるにはお小遣いが足りず、親には買ってもらえなかった。いまは止めるものが何もない。198円という額が「たいした出費じゃない」と思わせてくるので、なおさら性質が悪い。

まあ、なんだ。とにかく、そこまで好きなものがコンビニに並んでいたら買ってしまうだろうが! しかもランダム封入だと箱買いしちゃうだろうが! と、コンプ欲を抑えるのが大変すぎるわけです。


採点

総合

8.5 /10
所有欲
9.6
実用
4.5
価格納得
9.0